超高齢期の生き方を考える うまく年をとるために欠かせないものについて、ジョン・W・ローウェ/ロバート・L・カーンは著書『年齢の嘘』において大事なことは、うまく年を重ねることであり、これを Successful Ageing 成功加齢という。単に若作りしたり、不老を目指すのではなく、首尾よく年を重ねることであり、そのためには老いを意識することも大事なことといえる。「老い」を意識したときに、いかに心身を対処すべきかが見えてくると述べている。 サクセスフル・エイジング ⇒ 機能の高い高齢者 (認知症が見られず、自立している) ユージュアル・エイジング ⇒ 機能の低い高齢者 (認知症があり、介護が必要) 成功加齢の三要素 ①病気や障害がない ②高い認知機能と身体機能の持ち主 ③社会に積極的関与 成功加齢の三要素には、階層構造がある。病気や障害を抱えていなければ心身の機能は維持しやすい。心身の機能が維持されていれば社会と積極的に関わることもできる。 しかし、現実には高齢期に起こる病気や障害は多い。知覚の衰え、聴力の衰え、視力の衰えなど感覚機能は低下する。さらに、加齢による筋力低下などいろいろな障害が発生する。指先に力が入らずペットボトルなどの栓が開け難い、白内障、前立腺肥大など高齢者に多い病気もかなりある。 老いとうまく付き合いながら生活することが大切である。一病息災、二病息災を目指すことが現実に即した生き方だといえよう。 医師の神山五郎氏は、「従病(しょうびょう)」という生き方もあることを強調している。従病(しょうびょう)とは、病気を否定して徹底的に闘おうとするのではなく、逆にその病気を自分の一部、人生の一部として肯定してうまく付き合っていく姿勢をとることが大切と述べている(『従病という生き方』P34) 老 化 アンドレ・モーロワは、著書「生活の技術」において、上手に年をとるための二つの方法があると述べている。ひとつは、年をとらないこと、活動することで老化を免れる方法である。(生涯現役) もう一つは、老いを受け入れることである。 (老年的超越) 加齢により生物学的な変化が生じる基礎的老化を防止することはまず不可能であるが、緊張感、心理的なトラウマ、病気、傷害などのストレスから基礎的老化を促進する副次的老化は、遅らせる事が可能と言われている。 老化は、加齢により生物学的な変化が生まれる基礎的老化と、過度の緊張感、心理的なトラウマ、病気や障害などの人生上のストレスのよって基礎的老化を促進させる副次的老化に分けることができる。基礎的老化を防止するいかに高齢期を生きるかは、個人の考えにより一律に定義すべき事ではないが、年齢にとらわれない生き方が大事であることは、だれにでも当てはまる。「若さ」が絶対という社会構造から抜け出すことを考えるべきで、加齢による衰えは間違いない事実であり、いたずらに若さを追い求めることは止めて、むしろ老化を遅らせる努力はすることが必要だろう。 実年齢と主観年齢 年齢には、実年齢、主観年齢、血管年齢、脳年齢、体年齢などの言葉がある。主観年齢は気持ちの若さを表すもので「自分自身を客観的に見た年齢」といえる。人によっては実年齢より若い気持ちでいる人もいるし実年齢より上と感じている人もいる。 心理的・身体的な健康状態と主観年齢をつなげるメカニズムが相互作用する関係にあると言われている。脳科学者の研究では、主観年齢が若い人は脳も若いと言うことだが、脳が若いから主観年齢が若いと言うこともできる。 主観年齢が何によって決まるのかは定説はない。個人の主観によるものだが、例えば体年齢が実年齢より若ければ、主観年齢も若く感じられると思われる。 老年的超越 老年的超越は、スエーデンの社会学者、ラルス・トルンスタム教授が調査の結果を踏まえて提唱したもので、生涯現役を目指す活動理論とは違い、離脱理論や禅の知見などから「物質主義的で合理的な世界観から、宇宙的、超越的、非合理な世界観への変化」を述べている。 自己概念の変容 自己への執着が低下する。 心身の両面で自分にこだわる気持ちが薄れていく。 身体機能や容姿の低下を気にしなくなる。 利他主義的な考え方に変化する。 人生の中で良かったことも悪かったこともすべて自分の人生を完成させるために必要であったと理解するようになる。 社会と個人との関係の変容 自己への執着が低下する。 心身の両面で自分にこだわる気持ちが薄れていく。 身体機能や容姿の低下を気にしなくなる。 利他主義的な考え方に変化する。 人生の中で良かったことも悪かったこともすべて自分の人生を完成させるために必要であったと理解するようになる。 宇宙的意識の獲得 時間や空間に関する考え方が変化する。 現在・過去・未来の区別が消滅し一体として感じられる 先祖や昔の人とのつながりを感じるようになる。 神秘性に対する感受性が高まる。 人類全体を宇宙との一体感を感じるようになる。 生命の神秘を感じる。 死は一つの通過点と考えるようになる。 生と死を区別する本質的なものはないという意識に達する。 死の恐れが完全に払拭される。 『話が長くなるお年寄りには理由がある』増井幸恵著 P.98-103 引用 老年的超越は、超高齢期(85歳を超える)にならないと感じることはできないと言われているが、わたしも87歳を過ぎた頃から漠然と老年的超越に挙げられているような感覚を感じるようになった。 挙げられている変化のすべてではないが、それは個人差があるのだと思う。生涯現役を目指す生き方もよいが、老年的超越を感じる人生も捨てたものではない。 超高齢期の幸福感の特徴は高齢期とは異なる。 一人でいることの良い面に注目できる。 見栄を張らず、かっての自分の社会的役割にこだわらない。 あるがままの状態を受け入れる。 SOC理論(選択最適化保証) SOCは、ドイツの心理学者、ポール・パルテスが提唱した理論で、①目標の選択 ②資源の最適化 ③補償の3要素で成り立っている。 能力、やる気、時間、金などの資源が減った時には、目標を絞るか、目標のレベルを少し下げれば良い。(目標の選択)。 限られた資源を効率よく割り当てることで目標が達成できる。(資源の最適化) 自分が保有している能力を活かして、減ってしまった資源を補うこともできる。(補償) SOC理論は、高齢者だけではなく中高年者も適用することができる。